最高裁判所第二小法廷 昭和53年(行ツ)143号 判決 1979年6月18日
大阪市東区横堀二丁目六番地
上告人
寺杣産業株式会社
右代表者代表取締役
寺杣四吉
右訴訟代理人弁護士
太田全彦
大阪市東区谷町二丁目三一番地
被上告人
大阪法務局登記官
飯野實
右指定代理人
豊住政一
右当事者間の大阪高等裁判所昭和五三年(行コ)第一一号登記申請却下処分取消、登録免許税額処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年八月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人太田全彦の上告理由について
所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、右のように解しても違憲の問題を生ずるものでないことは、当裁判所昭和二八年(オ)第六一六号同三〇年三月二三日大法廷判決・民集九巻三号三三六頁の趣旨に微して明らかである。所論は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗本一夫 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 鹽野宜慶)
(昭和五三年(行ツ)第一四三号 上告人 寺杣産業株式会社)
上告代理人太田全彦の上告理由
第一、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな憲法の解釈の誤りがある。
不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準は、登記の時における当該不動産の価格即ち時価によるとされており(登録免許税法一〇条一項前段)、この場合において、当該不動産等の上に所有権以外の権利その他処分の制限が存するときは、当該権利その他処分の制限がないものとした場合の価額即ち更地価格による(同法一〇条一項後段)。そして当分の間課税標準たる不動産の価額は、台帳価格のある不動産については台帳価格によることができるものとされている(同法附則七条、同法施行令附則三項)。
ところで登録免許税法一〇条一項後段の規定は憲法一四条の法平等原則に反し違憲無効の規定であるにも拘らず、原判決は右規定を合憲と誤った解釈をなした。原判決は右規定を合憲とする理由について次のようにいう。
「登録免許税は、いわゆる講学上の所得税、収益税ではなく流通税に属し、各種の登記、登録等を担税力の間接的表現としてとらえ、登記、登録を課税の対象とするものである。これを不動産登記についてみれば、不動産の登記を受けることにより第三者に対する対抗力を備え、それにより権利が保護される等の利益を受けることからその背後にある担税力に着目して課税されるもので、不動産の取得者が当該不動産の取得によって現実に得られる財産的価値や当該不動産を使用、収益、処分することによる利益、即ち現実に発生し又は発生するであろう所得に着目し、これに課税するものではない。このような不動産登記に関する登録免許税の性格に照らせば、その課税標準を定めるにつき、当該不動産上の所有権以外の権利その他処分の制限等の負担、台帳価格と時価との比率の一般的な推移を考慮しなければならない合理的な理由はない。」
然しながら登録免許税が不動産の登記、登録等を担税力の間接的表現としてとらえ、登記、登録を課税の対象とするものであるとしても、まさに各種の登記、登録によって担税力に差異があることは否定することが出来ない。法が各種の登記、登録によってその税率等を区別して定めているのもそのためである。登録免許税法一〇条一項後段の規定の法意は、不動産上に所有権以外の権利又は処分の制限がある場合、これを考慮に入れて不動産登録免許税の課税標準たる時価を決めることになれば、時価の認定が多岐になるおそれがあり、又迅速な徴税が不可能となることを妨止せんとするにある。然し実質的には例えば借地権の設定がなされている土地と更地との時価は大巾に異なるのであり、同じ不動産登記であっても担税力に差異があるといわなければならない。従って担税力に応じて税を徴収するということからいえば右法一〇条一項後段は法平等原則に違反しているといわなければならない。ただ台帳価格が一般取引相場に比し相当低くおさえられている場合には右の不均衡は課税標準及び税額自体についてそれ程大きな差異をもたらさないため、徴税の便宜のため右不均衡を無視することも理由のないことではなかった。
ところが、台帳価額が漸次評価替により一般の取引相場に近づきつつある昨今にあっては、右担税力の差異は無視し得ない程大きな不平等をもたらしているものといわなければならない。もはや不動産登記に当って不動産に所有権以外の権利その他処分の制限がある場合、これがないものつまり更地価額によるものとすることは単なる徴税の便宜というだけでは合理的根拠のある規定だとはいえなくなっているといわなければならない。
第二、原判決には判決に影響を及ぼす法令の解釈適用の誤りがある。
すなわち原判決は登録免許税法施行令附則四項の規定にいう「特別の事情」とは台帳価格登録後、当該不動産自体に右規定に列挙する事由その他これに類する事情により質的又は量的な形状の変化が生じたため、当該不動産の価額が台帳価格により難い程度に変動した場合をいうと判示する。
然しそのように外観上明白に認められる事情に限定して解しなければならない根拠はなく、交通渋滞による立地条件の悪化という事情及び当該土地に借地権が存在することも右施行令附則四項にいう「特別の事情」にあたるといわなければならない。
以上